同じ夢松林と新宿駅前にでて、混雑する小田急前をくぐり抜けるように歩いた。買物から帰る人よりも、仕事帰りで、家路を急ぐ人も多いのかもしれないが、そこかしこに立ち寄るふうのサラリーマンやOLのほうが目立つ。そのなかを、むしろ流れに逆らうように歩いた。「買うと当たるとでも?」 「それが、宅急便のチャイムで起こされたので、なぜ買うか?は聞きのがしたんですよ」 「でも、わたしに話し掛けたのは、柴さんだった。間違いないです。」 「私がその台詞の続きを喋れるとでも?それはないよ。」 「そういう訳ではないけど、大きな海に漕ぎ出て不安になってたところに、柴さんの存在がすごく頼もしく見えたの。」 でも、松林が、なぜ、柴が働く会社に入ったのか、という疑問は、そのときは「偶然」という一言で柴は勝手に片付けてしまっていた。 おそらく何らかの作用で、一つの事象を両面から見ていたのかもしれない。ただ、彼女は、夢のお告げを最後まで聞いていない。だから、スクラッチくじを買おうとした。 それにしても、きのうの宝くじ売場のときの印象とは大違いだ。まるで、獲物を前にしたメスライオンという感じだったが、今日は打ってかわって、別人のようだ。 「ごはんでも食べてくか?」 「いいですよ。よければうちによっていきません?」 なんと大胆な女だろうか?初対面の男を部屋に呼ぶなんて。柴は、たじろぎもしたが、快諾した。 松林の家は、西武新宿線の上井草にあった。早稲田に通っていて、学生時代からずっと7年近くすんでいるらしい。 「おじゃまします」 柴も女性の部屋に入るのは初めてではないが、やはり、緊張する。ワンルームマンションで、窓には薄いピンク色のブラインドがかかっている。靴を脱いであがると、スルスルとブラインドをあげ、窓を開けた。 「あのナイターのあかりはなに?」 「あれ?あれはね早稲田大学ラグビー部のグラウンドよ。最近はナイター練習はやってないのに、どうしたのかしらね」 「柴さんは、何でもたべられるの?好き嫌いはない?」 「ない。なんでもOK」 「よかった。魚でもいい?」 「うん」 不思議な感覚だ。松林という存在が、自分にとって空気のようにかんじられる。それは、無価値といういみではなくてまるで旧知の存在のように思われて仕方ないのだ。そう、かけがいのない存在に柴には感じられる。 松林は、冷蔵庫のチルド室から、シャケを取り出すと、鼻歌まじりに、二つのシャケの切り身をまな板に置いた。シャケをバターで焼くらしい。 柴は、ふと冷静になる。たしかに、感性というか、まるでジグソーパズルで、ぴったりとはまったような感覚になっているのは事実だ。しかし、あの夢、松林の見た夢、そして宝くじのこと。いまいえることは4つ。スクラッチくじが当たったという事実。そして、その延長線上にある事実は、彼女が手にしている宝くじに一億円の当たりくじが入っている可能性があるということ。そして、彼女が自分にとってキーとなる人物になるということ。半分、信じていないが、地球が2週間後なくなるということ。 熱したフライパンに、みるみるうちにバターが溶けていく。その香りがなんともいえず、食欲をそそる。 「おなかすいたでしょ」 「たしかにね」 「冷蔵庫にビールは入っているから、飲んでいていいわよ」 「ありがとう。あとで一緒に飲もう」 「テレビでもみてて、すぐできるから」 「うん」 しかし、松林はなんで、ここまで自分にしてくるのか?普通、同じ会社に勤めているとはいえ、このようなことはしない。ましてや、今日が初対面だ。やはり、夢のなかでなにか黙っているけど、なにかを見て、お告げを受けたに違いない。 |